Quest PM

米系スタートアップで働くプロダクトマネージャー(PM)の姿をサンフランシスコから

プロダクトマネージャーがすべきプライオリティーづけについて

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 PMが開発要件に関して「全て大事」と言ってきた。

本当に迷惑ですよね。そのプロダクトを作る際に何が一番大事かを知りたいのに、「全部大事」と言ってくるプロダクトマネージャー。困るんですよ、開発する側から言わせると。当然コストも時間もかかるし、クオリティーを担保するのも一大事。ゴールがとてつもなく遠く見えてしまう。プロダクトチームとしてビジョンに一向に近づかない、枝葉にとらわれて森を見ず、何も進まないという状況に陥ります。PMが「全て」という言葉を使いだしたら、それはそのPMが思考停止していると言ってもいい。こういうことはシリコンバレー企業ではまず起こりえません。それはなぜか?

 

PMがすべき大事な仕事、それはプライオリティーづけ

プロダクトマネージャーはプロダクトの運命を決める人であり、ユーザーエクスペリエンスとそこからあがる収益に責任を持つ人です。それは最初のプランニングから、リリースしてユーザーが定着して収益がついてきて、最終的には次期バーションにユーザーを載せ替えるところまでも場合によっては考えます。

そのEnd to Endのサイクルは短いと数週間、長いと年単位の期間になるもの。当然開発する側からするとサイクルが短かろうが長かろうがScope of Workが適切でなければ作れるものも適切に作れなくなる。GAFAクラスの企業でもなければ潤沢なリソースがないので、必ずどこにフォーカスするのかを決めなければ、プロダクトチームのメンバーも会社自体も「一体PMはどこに向かっているのか?」という疑問を持つことになります。こういう空気が出てきてしまうのはPMとしては負けです。シリコンバレー企業ではPMのこのプライオリティーづけがスタートアップから大企業まで徹底しています。ここをうまくできないPMは評価されない。

だからこそPMは「全て大事」などと軽々しく言うのは間違い。プロダクトチームおよび、会社に対して、その期間はプロダクト開発のどこにフォーカスして何にプラオイリティーを置くかをクリアに伝えなければいけない。

 

プライオリティーづけでPMが意識すること

では「全て大事」と言ってしまうPMの何が問題か?それは「判断の軸」がないこと。優先度を決めるということは個別のアイテムを比べてどちらが上か下かを決めることであり、そのためには判断の軸がなければ無理。自分がこの地でPMを経験してきてひしひしと感じるのは、軸とは「インパクト」につきる。これを分解すると、

1. 短期・長期的に会社として達成したいことへのインパク
2. ユーザーへのインパクト(UI/UX的に。Customer Wow Factorと呼んだりもする。)
3. KPIに対するインパクト(ユーザー継続率や収益性など、どのくらいKPI向上に効果ありそうか)
4. フロントエンド・バックエンドへのインパクト(開発負荷・運用負荷という点で)

が代表的な軸。

PMはこうした軸を使ってプラスのインパクトとマイナスのインパクトのそれぞれの大きさを評価していく。当然マイナスのインパクトが大きければ、対策をするというよりも、一歩引いてそもそもなぜそんなにマイナスのインパクトがあるのかを考える。その結果として開発スコープを変更したり、狭めたりするなどしてインパクトのコントロールを行う。

 

PMがするプライオリティーづけはアートとサイエンスの掛け算である。

上の1,3,4に関して、もし社内でデータ化ができていないのならまずは会社としてこうした部分を数値化することを始めてください。この地のスタートアップも大企業もどの会社もPMがプロダクトに関するデータを自由に取得できる状態です。なのでSQLを叩いてデータ取得して、Pythonで加工してビジュアライズとかも自分も普通にやります。語るならデータなしには語ってはならないというのが徹底しています。

上で言うCustomer Wow Factorは計算で求められるものではないものの、PMがデザイナーと議論して1(low) - 10 (high)の間で感覚でスコアを決める。ここは完全にアートの世界。PMとしてのユーザーに対する理念やセンスが問われるところ。

従いプライオリティーづけは1,3,4のサイエンスの部分と、2のアートの部分の 「掛け算」。どちらかがゼロだとそのプライオリティーづけは裏付けがなくなってしまい、後々なぜそのプライオリティーづけで良かったのか(悪かったのか)きちんとトラックできなくなってしまう。4つの軸がなければどう決めてよいかわからず「全て大事」となるわけだ。

PMの仕事の面白さは0->1を作るだけではない。作ったプロダクトを不確実性の中で進化させ、チームや会社のサポートを正しい方向に導く指揮者となる部分にもある。このプライオリティーづけは多様な知識と経験、アートとサイエンスな洞察力をミックスして行うもの。今までなんとなくプライオリティーを決めていたのであれば、ぜひ上の軸を意識してやってみてください。ステークホルダーの納得感が変わり、何をすべきかがより明確になります。