Quest PM

米系スタートアップで働くプロダクトマネージャー(PM)の姿をサンフランシスコから

プロダクトマネージャーになりたい、もっと知りたいなら必読!”Inspired 第2版” レビュー

Inspired

Inspired 第2版(英語版)


初版からフルアップデート

プロダクトマネージャーという仕事にたずさわっていれば、Marty Cagan氏が書いた"Inspired"(初版)という本を一度は聞いたことがあったり、読んだことがあると思う。

この本の初版が世に出たのは2008年。まだアジャイル開発という言葉が今ほど当たり前に浸透していない。日本では有志によって日本語に訳されたりという活動を経て、この本をきっかけにプロダクトマネージャーという仕事が少しづつ日本で知られるようになった。

そして今月初めについに第2版 "How to create tech products customers love"(洋書)がでたので、早速読んでみた。Cagan氏いわく、最初は初版の10%くらいをアップデートするつもりだったものの、書き始めたら”Complete Rewrite"が必要だとわかり、全面改訂したとのこと。

プロダクトマネージャーとは?

 

(ここはPMなんて聞いたことないという人のため。知っている人はこの部分は読み飛ばしてください。)

 

そもそもプロダクトマネージャーとはどんな仕事なのか?

現在は主にウェブ系サービスやIT業界の中で製品を作る会社に見られる仕事。プロダクトの運命を握る責任者。シリコンバレーでは広く知られた存在だ。この人達が開発、UI/UX, QA、財務や法務、マーケティング、セールス、サポート部門といった社内の各部署との間、そして社外のサードパーティーやユーザーとの間で「ハブ」となりリリースすべき製品や機能、ユーザーエクスペリエンス、ビジネスモデルをプランする。みなさんがウェブサービス上で体験することはプロダクトマネージャー達が裏でタクトを振っていると言っていい。

逆に言えばその責任範囲は、そのプロダクトを使って行われる事業、コンプライアンス、ユーザーからのクレーム、売上などビジネス領域にも及ぶ。作っておしまいではないのだ。(会社の規模によってその範囲に差はあります。)

 

"シリコンバレースタイル"のプロダクトマネジメントが満載

Inspired 第2版はライブ感満載。日々プロダクトマネジメント業務にあたる中で使えそうなテクニック、適性の見抜き方、組織のベストプラクティス、Google, Netflix, MicrosoftのPM達が実体験を語るページがあったりとかなり中身が濃い。自分の会社のプロダクトマネジメント体制がこうした本場の組織とどう違うのか、その違いを学ぶにはうってつけだ。(違うことが悪いことではないにしても、プロダクトチームを強くするヒントがわかるはず。)

例えば、どんなプロダクトを作るべきかという手法についても、
Discovery Framing Techniques
Discovery Planning Techniques
Discoery Ideation Techniques
Discovery Prototyping Techniques
Discovery Testing Techniques
と分解されている。プロダクトを作ると言っても、どこから手をつけていいかイマイチわからない、はたして自分のアプローチが正しいのか自信がない、といった場合には特に参考になるはず。

心に響いた一節

この本の中で特に自分の中で心に響いた一節がある。それは、

Fall in love with the problem, not with the solution.

 日本語で言うなれば「惚れ込むのはあなたが取り組む『問題』のほうであって、『解決策』ではない」という感じ。これぞ、プロダクトマネジメントの真髄。特にテック系PMだと、新しいテクノロジーのトレンドを常に追い、自分でも理解が進んできたりすると、試してみたいと思うのは普通のこと。でもこれで突っ走ってしまうのは間違い。

思うにあくまでプロダクトマネージャーは「何を」作るのか(What)をWhyを使って突き詰めて考えるべきで、それをどう作るかの部分(How) はWhatが見えてからの話。そのWhatに当たる部分は、ユーザーの抱える問題や不満だったり、不便なところだったり(ここで言うProblem)を徹底的に理解することで導かれる。

ボタンの位置がユーザーの導線としておかしいのか、そもそもクリックする気にならないのでは、Problemに対する認識の仕方が根本的に違う。"Fall in love with the problem"とは「自分の問題認識の範囲を常に疑え」とのメッセージなのだ。

2018年はAIのメインストリーム移行がもっと進む時代。
強みになるプロダクトマネジメントスキル

先日Forbesに今後10年で生まれる「未来の仕事」という記事があった。

forbesjapan.com

 
この記事の中では、今後5年で生まれる可能性のある職業が紹介されている。

<今後5年で生まれる可能性のある職業>

データ探偵
BYO(個人所有機器活用)ITファシリテーター
倫理的な調達(ES)責任者
人工知能(AI)事業開発責任者 
エッジコンピューティング専門家
(以下略)

 

これを見て思ったのが、これからの時代ますますプロダクトマネジメントスキルというのが重要になってくるということ。なぜならユーザーが直面する問題を深いレベルで理解し、それをいろんな専門性を持つ人々を巻き込んで解決していくというのがこのスキルのコアだから。このリストで言う「人工知能(AI)事業開発責任者」は、まさにそのスキルが生かされる仕事。AIに使われるのではなく、AIを使う側に立っていくためにも必要なものだ。

2018年もプロダクトマネージャーの裾野が日本の中でもっと広がり、時代をリードするプロダクトがたくさん出てくるはず。まずは今の自分の立ち位置を確認するという意味でこの本はおすすめです。

年末年始の読書リストの1つにどうぞ。