Quest PM

米系スタートアップで働くプロダクトマネージャー(PM)の姿をサンフランシスコから

GAFAやシリコンバレー企業とランドロイド。そこにある決定的な差 - プロダクト・ランドスケープ思考

Image result for ã©ã³ãã­ã¤ã

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社のランドロイド

ここが「真空地帯」

何気なくこれはおもしろいな〜と思ってつぶやいたものが先日バズった。

 


ひと目でUberAirbnb的なビジネスモデルで狙うならどこが真空地帯かがわかる。この図がもたらす価値は大きかったようだ。ただ一つ心配だったのは、「よ〜し、おれもこの部分で勝負するぞ!」と勇んで飛び込もうとしていた人たちが結構いたこと。

この心意気は大いに買う。だが、自分の狙ったドメインで展開するプロダクトが本当にマーケットにフィットするかどうかを考える作業はある程度しておかないと、あとで痛い目にあってしまう。なので今日はそのためのツールについてお話したい。

おそらく起業や新規事業開発について関わっているなら、すぐにProduct Market Fit (PMF) と思いつくと思う。PMFについては結構いろんな方が話されているので、このブログではあらためて触れません。特に下記はシリコンバレーでも神VCの一人、マーク・アンドリーセンがPMFについて語ったものでこちらでも語り継がれています。以下はその日本語訳です。

growiz.us

 

Product Landscapeという考え方

今回ご紹介したいのはプロダクト・ランドスケープ(Product Landscape)という考え方。

プロダクトは単純に「それだけ」で存在するものではなく、使うユーザーの環境が外部要因として存在する。それは場所であったり、ユーザーが置かれた状況によって行動も変わるし、ユーザーが普段どんな人と交流しているかにも依存してきたりする。

Product Landscapeはこうした「外部要因」を4象限で浮き彫りにすることで、ぼんやりしたアイデアからプロダクトの輪郭が見えてくるようになる。もしくはどんな質問や仮説に答えないとプロダクトとして成立しないかがわかる。プロダクトマネージャーとしてふんわりした提案をして周りを悩ませるよりかは、こうしたプロセスを経て少しでも輪郭がクリアな方が議論は弾む。どちらかというとPMFの前段階という位置づけ

その4象限 (Four Quadrants)とはこんな感じ。

 

f:id:questpm:20190419143201p:plain

 

例として、先日破産してしまったセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社のランドロイドを例にプロダクトランドスケープを考えてみよう。

People & Network Quadrant
このプロダクトによって影響を受ける人とは?

補足すると単にプロダクトを使う人という意味だけではなく、そのプロダクトを使ったら誰に話をシェアしそうか(口コミ)、はては自動洗濯畳みによって影響受けそうな業界などといった意味。例えばUberにとってのタクシー業界、Airbnbにとってのホテル業界など。その場合業界との境界線をどう侵食していくのか。この象限では人と人のつながりの観点でプロダクトを考える。

例えばこんな質問が思いつく。

- 共働き夫婦、主婦、一人暮らし、子持ち世帯、 介護世帯、体の不自由な人、ビジネスとして成り立つ形で最も刺さりそうな自動洗濯畳みユーザーは誰か?

- こうした人々が比べることになるだろう別のサービスやプロダクトは何か?

- プロダクトとユーザーの間にどんな3rd partyがどのように入ってきそうか?

- サービス提供側と受益者側、そしてその外側にいる未ユーザーや非ユーザー、影響を受ける人々との間で考慮すべきことは?

 

ランドロイドが解決しようとした洗濯物畳みの手間と時間の問題は、日本だけでなく世界中に存在する。ペインポイントは明確だし、それがちゃんと解決されるならおそらく喜んでくれるユーザーは間違いなくいる。ただ、ランドロイドはユーザーをちゃんと見ていたかと言うとかなり疑問だ。

プロダクトの価格が200万円程度とのことだが、これはB2CなのかB2Bなのか?公開されている写真などを見るとB2Cっぽいのだが、この手の値段を出せる家庭となるとおそらく既にお手伝いさん、家事代行サービス等でまかなったほうが、畳むこと以上(洗濯・乾燥・アイロンがけ・畳み+空き時間で掃除など)のことをしてくれるのでコスパがいいと感じるかもしれない。


Technology & Trend Quadrant
コアとなる価値を最速で届ける方法とは?

この象限では向こう12〜18ヶ月のテクノロジートレンドの中で、プロダクトのコアとなる価値を最も感じてもらう最速の方法として、どんな手段が使えそうかを考える。

- People象限で見えてきたユーザー像からして、価値が感じられる瞬間とはどのようなものか?(よくUSでは"Ah-ha moment"と呼ばれる)

- 「先端のテクノロジー」にこだわることが、「価値を最も感じる経験」と「最速で届ける」ことにどのくらい寄与できるのか?(そのテクノロジーはMust haveかNice to haveか?)

- ユーザーがコントロールできる範囲は何か?


ランドロイドの場合 AIによる画像認識が特徴の一つにあがっている。しかしユーザーにとって

「自分が畳む」=「ランドロイドが畳む」

という価値が等式になるのは最低限のこと。仮にうまくたためない、時間がかかる、エラー発生といったことが起ると

「自分が畳む」>「ランドロイドが畳む」

という価値の不等式になってしまい、すぐに使われなくなってしまう。そこにAIがどうたらは関係ない。

つまり、「畳むことだけ」に価値を置いてしまうと、よほどテクノロジーでうまくやれる自信がないとすぐに価値を毀損する爆弾になってしまう。そんなプロダクトが200万円だった場合、リスクを取ってでも価値を感じて買うアーリーアダプターとはどんな人だろうか?

 

Place & Organization Quadrant
場所・シチュエーションのユニークさ

このプロダクトが使われる場所やシチュエーションに、どんなユニークさがあるかをあぶり出す。

- 子育て家庭か、共働き家庭か、一人暮らしか、介護世帯か、場所やシチュエーションでプロダクトの価値の感じ方はどう変わりそうか?

- B2Bプロダクトとして使う場合、それがどんな場所なのか?(工場、店舗など)
toBユーザーが感じるプロダクトの価値と、toCの場合の価値と何が変わるか?場所のユニークさは大きくプロダクトに影響する。


例えばランドロイドの想定ユーザーが子育て家庭だったとしよう。まずランドロイドは日本の住宅事情に沿う物理的な大きさになっていない。ただでさえ場所を取る冷蔵庫や洗濯機があるのに、ブログ冒頭の写真のようなランドロイドを置くとなるとさらに家の中に冷蔵庫が1台増えるようなもの。そのスペースがある家庭というのはどのくらいあるのか?

仮にランドロイドがB2Bで使われることを想定した場合、そのtoBとは誰なのか?その法人がランドロイドに期待していたことは、おそらく単に畳むことだけではないはず。なぜならtoBプロダクトの場合、その提供価値が顧客のビジネスのプロセスの中の一部として入り込まないとまず定着しないからだ。畳む+α の価値と言い換えても良い。


Activity & Touch point Quadrant
ユーザーの「自然な行動」とは?

People象限で見えてきたユーザーが、そのプロダクトを自然に使うためにとるアクションとはどんなものか?その時何のアクションが暗黙のうちに期待されてそうか?
(例えば「目の不自由な人でも使えるために、ボイスコントロールが必要?」など)

- Attention Span (人が何かに集中できる時間) が短いユーザーの場合、プロダクトを迷わず使ってもらうためのシンプルさとは?


洗濯後、乾燥機がない場合一旦外干しや部屋干しをしなければならない。仮に洗濯機とランドロイドが1階、ベランダとタンスやクローゼットが2階にあるとすると、洗濯機(1F) -> ベランダ(2F) -> ランドロイド(1F) -> クローゼット(2F)と1階と2階を無駄に往復しなければなくなる。例えば家族4人分の洗濯物を2階に運んで干すことは既に大変なのに、一度取り込んだものをまた下におろし、たたまれたものをまた2階に運ぶ、というのは家庭ユーザーにはおそらく受け入れられない。畳むことは面倒だが、慣れてしまえばベランダで取り込んだあと、さっさと自分で畳んで直接タンスにしまったほうが結局早いと考える人は当然でてくる。

 

洗濯物を畳むことは時間も手間もかかるが、実は畳む前後にも手間と時間が発生している。仮にプロダクトのスコープが「洗濯プロセス」だとすると、ユーザーが真に喜ぶのはこうした洗濯物プロセスにまつわる一連の時間と手間をどれだけ省けるかだし、そのビジョンのもとにランドロイドを位置づけないとただの高い家電で終わってしまう。もしくは全く逆に「そもそも洗濯しなくていい素材・服」という常識をひっくり返すアプローチもあるかもしれない。
 

こうしてそれぞれの象限を往復しながら考えると、プロダクトの輪郭を明らかにするためのいろいろな質問や仮説が浮かび上がってくるのがおわかりいただけたと思う。

特にキモとなるのは以下4つ。

- 依存関係や相関してることは?

洗濯物を畳むというのは、ユーザーの日常生活に深く結びついている。ただ単に「畳む」部分を切り取るのではなく、その前後の行動の依存関係もかなり重要なファクターだ。

- 潜在的リスクは?

畳めなかった瞬間に訪れるがっかり感は、ユーザーにとってかなり大きい。そのインパクトをどうプロダクトの内外で吸収するのか? "Pain relief (痛みを無くす)"のはずのプロダクトが、"Grow pain(痛みの増幅)"になってしまっては本末転倒。


- (気づいてなかった) ビジネス機会はあるか?

B2Cでなければいけないのか?B2Bでまずは小さく始める方法もあるのでは?

- 他に理解が足りてないところはどこか?

家庭で使うことを想定するなら、洗濯物前後の家事も体験してみないことには、本当のペインポイントを見失ってしまう。

 

プロダクトランドスケープで考えてみると、作ろうとするプロダクトが社会の中でどのように存在するのかが見えるようになる。逆に、会社のミッションやゴールとつきあわせて見直してみると「これ以上考えなくて良い範囲」も見えてくる。もしランドロイドを構想段階でプロダクトランドスケープに当てはめて考えていたら、おそらく今回のような失敗はしていなかったかもしれないし、105億円もの調達額も無駄にはならなかったはず。

日経ビジネスの記事を読んでいて気になったのは、

完全な製品を世に出したいと考えるパナソニックは、この点を重く受け止め、発売に難色を示した

のくだり。リリース時期がずれにずれていたこと、これまでの投資額を鑑みて投資サイドからある程度のクオリティーを求めたくなる気持ちはわかる。 だが、スタートアップに「完全な製品」を求めるのはさすがに酷というもの。それよりも、*最小限の機能だがユーザーに愛されるプロダクトをつくり、そこから継続的に改善する道筋を作ったほうが成功する可能性は高かった。もし投資家サイドもプロダクトランドスケープの議論を早い段階で行えていたら違った結果になっていただろう。

*最近だと同じMinium Viable Product (MVP)という言い方をしても、中身はMinium "Love-able" Product (MLP)という考え方にシフトしてきている

 

プロダクトランドスケープの使い方

勘の良い方は、プロダクトランドスケープ思考とUser Journey MapEmpathy mapは似てるとこあるかも?と思われるかも知れない。確かにかぶっている部分があるが、違いとしてこれらのマップは上記の4象限を別の軸で整形したものとなる。User Journey Mapは時間軸を使ってアクションから次のアクションへと移る「遷移」を、Empathy mapはプロダクトに触れた時にユーザーが思う「感情」の部分に焦点をあてている。Product Lanscapeとは切り口が違うのだ。

Product Landscapeはあくまでズームアウトして全体を俯瞰するもの。User Journey MapやEmpathy mapはズームインでミクロにユーザーの思いを理解するという感じで使い分けるとお互いに補完しあえて良い。

そしてこのツールは思考を発散させて、仮説や本質的な質問をいろいろ導き出すために使うのがベスト。あくまで「俯瞰」に力点が置かれてるので、ここで導き出された仮説にプライオリティーをつけて、次のステップとしてユーザーインタビューなどを通して検証していくのが大事。

シリコンバレー企業とて、失敗しているところもたくさんある。が、うまくいっている会社はたいていこのプロダクトランドスケープが成長ステージごとによく見えている。だからこそ果敢にピボットもするし、別の会社を買収して補ったりする。最初に決めた勝ち筋が未来永劫正しいわけでもなく、それだけで行くことが必ずしも正解ではないのだ。


こちらにシートを用意したので、ぜひアイデアのブラッシュアップに試してみて下さい!また、うちのプロダクトランドスケープ分析を手伝ってほしい、という方はquestpm.info@gmail.com まで遠慮なくご連絡ください。 

docs.google.com

 
【お知らせ】

シリコンバレーで発展し、新しいモノづくりの形として日本ではテック系スタートアップを中心に採用が進んでいるプロダクトマネジメントという考え方。Udemyでプロダクトマネジメント入門講座を公開しており、今やビジネススキル・マネジメント部門でベストセラーです。ぜひ学んでみて下さい。

ブログ読者割引クーポンはこちらから!👇

https://www.udemy.com/introduction-to-pm/?couponCode=QUESTPM_LANDROID

f:id:questpm:20190429122026p:plain