知らないと痛い目にあう、5Gを使ったアプリ開発 - Part 2
5G時代を見据えたByton社のConnected car (Autoweekより)
5Gの何がすごいのか(後編)
前回の記事をご覧になっていなければ↓からどうぞ。
5G以前のネットワークアーキテクチャーだと遅延やデータロスの影響をモロに受けるという話しをしました。では5G以降はどうなるか?早速下の図を見てみましょう。
5G後
お気づきになったと思うが、5Gの無線施設のそばにエッジコンピューティングサイトができている。これこそが5Gのキモ。エッジコンピューティングサイトはある種の小規模データセンターです。通信キャリアにとって5Gを導入するといのは、こうしたサイトをアプリ開発者や利用者のために準備するということでもある。逆に言えば5Gを利用したアプリというのはこうしたエッジコンピューティングサイトでアプリのバックエンドを動かすことにほかならない。ユーザーからすれば、この存在のおかげで遠く離れたデータセンターやクラウド環境へアクセスする頻度は少なくて済むということ。(その分体感速度は大幅に上がる)
ちなみに実際のエッジコンピューティングサイトは以下の写真のような感じ。
奥の塔が5Gの電波塔、手前がVaporIO社のエッジコンピューティング施設 (Datacenter Knowledgeサイトより)
従って5G以前と比べてこのアーキテクチャーのなにが優れているかというと、ユーザーの端末から上の図の右端のデータセンターやクラウドサービスへのアクセスで発生する遅延やデータロスを大幅に減らせるというところになる。
5Gを使ったアプリを作るために知っておくべきこと
モバイルアプリ開発者にとって魅力的に見える5Gだが、重要な制約条件がある。それはエッジコンピューティングサイトから端末までの距離だ。あくまでこの距離と5Gで対応可能な電波の範囲でパフォーマンスが決まる。
例えばUSの通信キャリアは都市圏にいくつかのエッジコンピューティングサイトを設けるようなので、そこを勘案するとそのサイトから50−100キロ圏内が5−10−100の5Gのパフォーマンス範囲ということになる。
逆に言うと5Gだ、10Gbpsだと盲目的に信じたところで日本からインド、日本からUSが5ms以下の遅延になるわけではない。地球の裏側のいるユーザーとリアルタイムで高解像度なVRアプリを動かすのは、5G環境になったとしてもかなりコストのかかる話なのは変わりはないのだ。
ドイツテレコムの事例 - ヒトの体に医療情報をリアルタイムで表示
先月末に行われたMobile World Congressでは各キャリアが5Gのユースケースを展示。上の写真はドイツテレコムによる医療現場で使われるユースケースの例。マネキンに対して5G端末をかざすと、その患者の身体内の情報が4Kの解像度でリアルタイムで配信される。
端末は体の3次元座標をカメラから認識し、この位置情報を送信。エッジコンピューティング側で画像をレンダリングし、端末へ高精細画像を送り返している。ネットワークの遅延が極端に低いので背中側にまわれば背中側からみた情報がきっちり表示され、ゆらしても素早く動かしても残像がでることはなく常に高画質だった。要は手元の端末が、ハイスペックなマシンと直接つながっているようなイメージ。
4Gから5Gへの進化が意味するもの - Experience Divide
5G時代を迎えるにあたってもう一つアプリケーション開発をする側が意識しておくべきことがある。それは「5Gデバイスを持つ者」と、「持たざる者」におこるユーザーエクスペリエンスの大きな差だ。私はこれをExperience Divideと呼んでいる。2回にわたって解説したように、5Gはアプリケーションのユースケースに大きな変化をもたらす。だが、それにアクセスできるのは当然5G端末を持っている人だけだ。
そのアプリが対象とするマーケットにもよるが、もしグローバルにアプリを展開するとなると、当然5Gデバイスを手に入れられないセグメントがでてくる。だがそういうユーザーも自社にとっては大切なユーザーには変わりない。そうなった時にアプリ開発側として5Gを持つものと持たざる者、そして持つものへと移行していくユーザーに対してどうユーザーエクスペリエンスを定義していくかは、ユーザーに使い続けてもらうアプリになるために重要な視点。
今年末から2019年にかけてUSや中東では5Gが商用化される。一方日本は2020年。まだ「先の話し」とたかをくくっていると、先行するUSの企業にまたしても市場を席巻されてしまいかねない。そうなっては遅い。今のうちから議論を始めておくことをおすすめします。