Quest PM

米系スタートアップで働くプロダクトマネージャー(PM)の姿をサンフランシスコから

Netflixだって失敗から学ぶ。世界のPM達が注目した10個の教訓

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シリコンバレーのプロダクトマネージャー(PM)界隈で、大御所の一人として有名なGibbson Biddleさん。元はNetflixのVP of productで現在のNetflixの成長の原動力を作った人です。彼のブログは勉強になることが多く、世界のPM達からも一目おかれています。

昨年暮れに投稿された記事は今では2000以上のLikeがつき、日本のPMの皆さんにもぜひ読んでもらいたいと思いました。ツイッター上でGibbsonさんに翻訳していいかと聞いたらあっさり「いいよ」と答えてくれたので、今日はそれについて書きます。

読了目安: 8分  5000字につき長文注意

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Gibbson Biddleさん

 

私はNetflixを例に多くのプロダクト開発戦略について、これまでいろいろなところで書いてきました。他の会社にNetflixの成功と失敗を学んでほしいからです。よく私がお伝えするのは、Netflixで行われる試みの半分は成功していますが、実は残り半分は失敗しているということです。

こうした失敗事例は多くのプロダクトマネージャーにとって、プロダクトローンチやスタートアップを成功させることがいかに難しいかを教えてくれる教訓です。加えてアートとサイエンスをうまく組み合わせて、作るべきプロダクトを見つけ出すのがいかに難しいかを我々に強調しています。

 

なぜ、Netflixはそんなにも失敗が多いのでしょうか?理由は2つあります。

1. 多くの人間が介入することで生まれるバイアスの多さ

2. うまくいかないプランにこだわってしまう(本当はそんなプランはすぐに諦めて、別の勝ちプランを見つけてそちらに集中すべき。良し悪しを見極める判断力がキモ。)

Netflixの友達機能について

Netflixは2004年に友達機能(Netflix FriendsもしくはCommunityと呼ばれた)を始めました。この時Facebookがユーザーを100万人から600万人に増やした頃です。この華々しい成長の結果、シリコンバレーのVC達は「あなたの会社のSocial Startegyは何か?」とよく聞くようになりました。

 
Netflix’s Friends, 2004–2010.
Screenshot: Wesley Fryer/Flickr/CC BY-SA 2.0


この友達機能で、Netflixは競合が真似できず、利益率の高い状態でユーザーを喜ばせることができると信じていました。Netflixの加入者は映画の良し悪しを友達から得られることを喜び、ユーザー同志で強固なネットワークができあがり、映画のレコメンドが友達経由で次々になされることで、レコメンド自体の効率があがると考えたのです。

Netflixがユーザー定着率(Retention)の改善を望んていた一方で、計測できるメトリックとして、「少なくとも一人の友だちとつながるメンバーの割合」を採用していました。

友達機能がリリースされたとき、この機能を使ったユーザーの割合は全体の2%、4年後に8%。そして2010年(すでに私はCheggという会社に移っていましたが)、Netflixはこの友達機能をやめてしまいました。この機能を継続するためには20%のユーザーに使ってもらう必要があったのです。この閾値を超えない限りはユーザー継続率の改善はみこめません。6年にもわたる努力をもってしても、ゴールには全く届かなかったわけです。

なぜNetflixはそんなに長くこだわったのか?

 

ここで賢明なみなさんなら思うでしょう。「なぜそんなに長くこだわったのか?」それには理由があります。

CEOによるサポート

CEOのReed Hastingはこの機能に大変自信を持っていました。こうなってはCEOが諦めない限りなかなかやめることはできません。

 

戦略として、ソーシャルな機能は意味があった

「机上の戦略」としてはソーシャル機能になんの不備もありませんでした。ユーザーを喜ばせ、競合による模倣が難しく、利益率の高い機能だからです。全てのチェックボックスを「机上では」満たしています。

 

"Small wins"が判断を曇らせた

友達機能をリリース後、メトリック自体は順調に伸びていました。問題は、Netflixがその成長率が目標には届かないと早い段階で認識できなかったことにあります。

 

プロダクトマネージャー達が楽観的すぎ

PMは避けることの出来ない挑戦に打ち勝たないといけません。このような状況下ではPMは往々にして楽観的になりがちで、ネガティブな要素を無視してしまうことがあります。ただ、こうした性質は成功するPMの資質として自然なもので、むしろ必要なバイアスとも言えます。

 

イデアに問題があったのではなく、実行に問題があったと考えた

この友達機能はFacebookがそのソーシャルネットワークを外部に公開する前にリリースされました。そしてNetflixは業界特有の問題に多く直面することになりました。その結果実行部分でかなりの苦労がともなったのです。例えば、U.S. Video Privacy Protection Actは、DVDのレンタル履歴を他者にシェアする場合、ユーザーから*オプトイン許可が必要になります。これは友達機能のUXとしては大変問題です。
(*ユーザーが自主的に情報開示を認めることを、約款を表示の上明示的に許可をもらうこと)

こうした問題の対応に注力してしまうと、Netflixとしてそもそもソーシャル戦略をどうするのかという評価から焦点がずれてしまいます。

逆説的だが、過去の「小さな成功」がシャットダウンを難しくしてしまった

Netflixの仕事はユーザーを喜ばすこと。友達機能をやめてしまうことはその原則の逆をいってしまうことになると考えるようになっていました。この背景には、2009年、Netflixはユーザーの*プロファイル画面の機能をやめたときの経験があります。この決断はユーザーから大きな反発を受けました。全ユーザーのたった2%しかつかっていないにもかかわらずです。
(*複数のNetflixユーザーが同一の画面で使う場合、アカウントをスイッチできる)

明らかになったのは、その2%のユーザーは本当にこの機能を大切だと思っていました。もしプロファイル機能でアカウントがわけられないと、1つのアカウントを複数のユーザーで使うことになります。これが発端で離婚にいたってしまうユーザーもいたのです!Netflixは後にこの機能を復活させました。(そういえば、Netflixのボードメンバーのほぼ全員がプロファイル機能をつかっていたこと、話しましたっけ?)

失敗から得られた教訓

 

それでは今回のようなNetflixの失敗事例から重要な学びを抽出してみます。

1. アイデアの出どころではなく、アイデア自体に注視する

友達機能は社内でも時間と投資がかなり割かれました。CEOがバックについていたからです。ですがCEOが間違っていました。こういうことは起こりえます。この場合NetflixのPMはアイデア自体とそのメリットについて冷静に評価すべきでした。

 

2. 社会・社内通念にとらわれていないか注意する

シリコンバレーのThought Leader(思想的な指導者)達は、ソーシャル戦略の価値を強調していました。この"ソーシャル"というのは音楽の分野には親和性が高いものでした。(映画とあまり大差ないように見えますが。)しかしNetflixは次第にユーザーは自分が見た映画の情報を公開するなんてだれも望んでいないと学んでいったのです。さらに大事なのは、映画の趣味趣向は驚くほど個々人で別れています。こうした多様性が強い状況下では下手をすると「あなたの友達は自分には全く興味のない映画を気に入っている」という、どうでもいいことをユーザーは知ることになります。そこに価値はないですよね。

3. プロダクトに対する行き過ぎたプライドを和らげる

PMは作り手として、当然作ることが大好きです。誰もプロジェクトをやめることを望んでいません。ただ高ぶる情熱と期待は判断能力を曇らせます。

4. クリアな目標を定める

Netflixはユーザーの行動を見るための指標を設定しています。しかし、友達機能の時はゴールに到達する際のタイムラインを設けていませんでした。(2年以内に10%のユーザーエンゲージメントを増やすといったもの)

こうしたクリアなゴールを設定することは、「次の四半期にはどうにかなる」といったゆるい期待をしてしまうことに対するガードになります。これは私が好きな、Noon time turnaround ルールと同じです。(エベレスト登山をする登山家が、頂上まであと100メートルであったとしても時間が正午になったら引き返す。なぜなら午後になると酸素量の変化や、天候、日照の条件も急激に変わり登山家の判断を狂わすから。)

5. ブラインダーを開ける(データに対して目を見開け)

PMはゴールにフォーカスするあまり、進めべき方向変えるような新しいデータに対して盲目的になってしまうことがある。ユーザーが良いアイデアと思ってくれるのなら、多少機能に不足があっても熱狂的に受け入れられたりする。こうして成功するプロダクト開発はモメンタムをすばやく形成できるもの。しかし友達機能の時、トンネルにいるような視界だったNetflixには失敗を受け入れられなかった。

 

6. サンクコストは無視せよ

「私達は多くの時間と労力を投入した。今さらギブアップはできない」こんな言葉が何度もあった。過去の資金やリソースの投入量だけで未来の投資判断をしてはいけない。自分自身に冷静に問いかけてほしい。「今日自分達が知っていることをもとに、どこまでリソースを投入し続けるべきか?」

7. より良いアイデアに対してはオープンに

Netflixは最終的に友達機能を開発したチームを他のチームに移しました。そのためには、偏見をもたないエグゼクティブが彼らの目を覚まさせ異動を後押ししていました。新しいアイデアやプロジェクトにオープンになってもらったのです。

8. 辛い判断でもあなたの役割上貫徹すべき

リーダー・マネジメント職やエグゼクティブの立場の人にとって、一番の仕事はバイアスのかかっていない判断を提供すること。その判断はプロダクトへのプライドや情からは離れたものであるべきです。5年にわたる努力をやめさせることを言い伝えるなんて、誰もやりたくありません。しかし、立場上やらざるを得ません。言わなくてはならないものは全うしましょう。

9. やめるべきプロダクトを適切にシャットダウンさせる

プロダクトをシャットダウンさせることは非常に難しいです。規律に沿った形で実行されるのはなかなかまれでしょう。Netflixは友達機能を「安楽死」させるアプローチをとりました。ユーザーにはかなり前からこの機能をやめることを通達し、なぜやめるかを説明し、どのようにユーザーがこの機能から離れられるかパスを提示し、同様のコンテクストで何度も説明しました。その結果、ユーザーからは大きな反発はありませんでした。

10. 失敗の遺産を既存のプロダクトに残さない

Netflixが友達機能をやめた時、サイトから当該機能を抹消しました。こうした徹底的な排除に失敗してしまった会社は、コーナーケースに遭遇するたびに本来のプロダクト開発の動きを遅くしてしまいます。シンプルで使いやすいUXを作り続けるために、実はこうした機能の排除(Sunsetting)が適切にできることが求められます。

 
The year 2010 brought about the end of Netflix Friends.
What barnacles should you scrape?
Screenshot: Tech-media-tainment


あなたのプロダクト開発は大丈夫ですか?

巧みなプロダクトマネジメントは、人・ビジネス・プロダクトについて、いかにベストな判断ができるかに依存しています。そのためには、Consumer science(データや定性的なリサーチやインタビュー、A/Bテストなどで仮説を構築検証するプロセス)を使えるだけでなく、使いこなすためにある程度の直感も必要です。市場で成功できる、消費者向けテックプロダクトを作るというのは本当に難しいものなのです。


プロダクト開発に携わった時、あなたの人間性は時として判断を曇らせてしまうことがあります。上層部の強い押し、社会・社内通念から距離を置きましょう。達成すべきゴールを設定し、あくまでそれに向かうことに集中。あなたの中で高まるプロダクトへのプライドを落ち着けて、自分に問うてください。

過去の自分達の時間・資金・労力の投入量にかかわらず、今日自分たちは何に力を向けるべきか?

 

もし自分がこのままでは失敗してしまうプロダクト開発のただ中にいるのなら、あえて声をあげましょう。そして失敗の産物を全て削ぎ落としましょう。こうした失敗によって研ぎ澄まされていったあなたのプロダクトセンスは、プロダクトマネージャーとしての成功確率を劇的に高めることになります。

 

編集後記

いかがでしたでしょうか?Gibbson氏があげた教訓はどのようなプロダクト開発に関わるPMであっても意味のあるもの。今プロダクト開発に関わる方は自分たちのPMを見て、また現在PMの人は今自分が行っていることをこうした教訓と照らし合わせてみて、どこを修正するとよさそうかぜひ冷静に見直してみてください。自分のPMレベルを一段ひきあげる良いきっかけになるはずです!

 

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