ビデオ会議の雄、ZoomがIPO - 愛されるB2Bプロダクトに見る強さの秘密
IPO後、株価が81%上昇
ZoomがIPOしました。初値$36が終わってみれば$65と81%上昇。すごすぎです。ZoomのS-1ファイリングによれば、5万社にわたるカスタマーをかかえ、直近の収益は366億円。前年度比118%増と、今年に入ってIPOしている会社の中ではしっかり利益を出している。
一方でLyftは$78でIPOしたものの、現在$58と鮮やかな上場ゴールを披露。今ではLyftの最初の株価は不当に値段が釣り上げられていたとして、投資家の不満は爆発。裁判沙汰になっています。
ということでIPO悲喜こもごもがあるわけですが、今回Zoomはなぜこんなにうまく行ったのか、このB2Bプロダクトの裏側にある強さを引き出してみます。
圧倒的な使いやすさと高品質なビデオ会議
ビデオ会議をする時、こんなイライラを経験したことないだろうか?例えば以前自分がUKのチームとビデオ会議する時に、こんなことがあった。
- 動画と音声をビデオ会議アプリ上にすると音声がグダグダになるので、ビデオとは別に電話でジョイン。ビデオは音声をミュート。
- International dial in number -> どこに書いてある?え、別のページに行ってわざわざ検索しろと?
- Conference ID(9桁)を手入力 -> 時間ギリギリで始めなければ行けないケースだとたいてい打ち間違える。
- パスコードを(4桁)を手入力 -> え?パスコードいるの?そんなのインバイトに書いてあったっけ?
- Attendee ID -> は? ジョインしたら口頭で名前告げればよくないか?
- プラグインのバージョンが古い -> わざわざページに飛び、ダウンロードしてインストール -> 相手待たせてんだけど!?
と、いざビデオ会議を始めるのにもかなり面倒なUXになっていた。ところが、Zoomはこれを極限まで簡単にしている。例えば電話での参加の場合、以下の部分をワンタップするだけで勝手に電話がかかり、ID周りも自動で処理してくれる。
事前にZoomのアプリをインストールしておくと、ビデオでの参加の場合インバイトにあるURLをクリックするだけでアプリが勝手に立ち上がりサクッと参加できる。モバイルのUXも同様。ビデオの画質も音声品質も問題になったことはなく、上記のようなストレスは一度も感じたことがない。
例えばUI周りなどCitrixのGotomeetingと比べるとZoomのシンプルさが一目瞭然だ。
こうした使い勝手の良さはフリーアカウントでも十分に感じることができる。(つまりZoomのビジネスモデルはフリーミアムモデル)以下のようにグループミーティングの場合は参加者100人までかつ40分間無料。1対1のミーティングであれば時間無制限。ビデオ会議の回数には上限なし。しかもサポートつき。
ということで、タッチポイントがシンプルでユーザーの意図したとおりに動く。できの良いB2Cアプリのような体験をビデオ会議に持ち込んだのがZoomなのだ。
Viral enthusiasm (熱狂の連鎖)
ZoomのS-1ファイリングを読んでいくと、
Our mission is to make video communications frictionless.
(我々のミッションはビデオコミュニケーションをヌルサクにすること)
とある。Zoomの創業者Eric Yuanさんは、もともとWebexというビデオ会議の創業メンバーの一人でVP of Engineeringだった。後にこの会社はCiscoに買収され、一時期Cisco Webexは業界を席巻。ところがプロダクトとユーザーの肥大化、シスコ製品との統合で使い勝手が低下。
そこで、ニューヨークにある投資銀行の驕奢な会議室から、中国でのキッチンテーブルに至るまで、どこでもシンプルに、ちゃんと動作するものを作ろうと思ったのが始まり。そもそもなぜ人が、面倒なビデオ会議アプリケーションに振り回されねばならないのか、という強い疑問があったようだ。
そして、この強い思いがプロダクトに現れます。ZoomはこのS-1ファイリングの中で、"Viral enthusiasum (熱狂の連鎖)"という言葉をなんと8回も使っている。Zoomの圧倒的な使いやすさを、ビデオ会議ユーザーにどんどん口コミで広げてもらうということを最初から念頭においていたのだ。
そして以下の指摘もかなり本質を突いている。
Viral enthusiasm begins with our users as they experience our platform – it just works.
(熱狂の連鎖は「シンプルに、かつ確実に動く」という当たり前を、我々のプラットフォームで実感してくれたユーザーから始まる。)
熱狂を引き起こした土壌
たかがビデオ会議、されどビデオ会議。なぜZoomのプロダクトは「熱狂」に至ったか?そこには長年マグマのように溜まったB2Bプロダクトユーザーの「鬱憤」があったからだ。Zoomはそこをつついた。
G2Crowd というリサーチ会社があり、Software Happiness Reportというのを出している。
これによると、おおよそ人が仕事に捧げる時間は人生のうち9万時間以上(おそらく日本だともっと長い)。従い、仕事で使うツールの使い勝手や生産性は究極的にはその人の人生にも影響してくるわけです。適切でないツールを従業員に使わせていると、下記のように62%もの人が「自分の力を発揮できていない」と感じてしまう。
これからのB2Bプロダクトの常識: Consumer Grade UX
Consumer Grade UXとは、B2Cプロダクトで消費者が体験する良質なプロダクトのUXと言い換えてもらっていい。考えてみると、B2Bプロダクトのユーザーは、実は同時にB2Cプロダクトユーザーでもある。そうすると仕事中の合間にツイッターやLINE、メルカリのように洗練されたUXで作られたプロダクトを日々目にする人も多いだろう。
そして仕事に戻った時イラつくUXのB2Bプロダクトが現れたらどう思うだろうか。そこにあるのはかなりの「がっかり感」のはずだ。もはやそれが当たり前過ぎて麻痺してしまっているかもしれないが、本来そうではないはずだ、B2BプロダクトだってB2CのようになめらかなUXがあっていい、と訴えるのがConsumer Grade UXの考え方。
(シリコンバレーでは"Frictionless (摩擦のない) UX"という言葉で表現することもある)
Zoomは、ビデオ会議をスケジュールする、始める、参加してもらう、会議進行を助ける、こうしたシンプルな機能をパーフェクトに研ぎ澄まし、余計な機能は省いた。その結果ビデオ会議のUXはかなりエレガントにしあがっている。
こうしてB2BプロダクトでB2CのようにUXが研ぎ澄まされてくると、B2Bプロダクトを使うこと自体も楽しくなるし、「このツールだと仕事が捗る」と思ってもらえる状態になる。これまでの社内で使うアプリやツールのUXがどうしようもなくひどかった場合、この差は体感としてかなり大きく感じるし、鬱憤から開放されたユーザーが嬉々としてViral Enthusiasmへと発展していくのだ。
もちろん単にUXが良いだけで売れるようになるわけではないが、一旦採用されればB2Cと比べて長期間使われるものだし、ユーザーが日々触るものとなれば使い心地の良さはNPS(Net Promter Score)や継続率にも直結する。ということで、B2Bプロダクトに携わる人こそ、Consumer Grade UXという観点でプロダクトを見直していくと大きな支持を得られる可能性がグンと上がるのはおわかりいただけるはず。ぜひ自社プロダクトを良くするのに取り入れてみて下さい!
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