「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス」をPMの観点で読み解く
及川さん(@takoratta)さんに先日お会いした時におすすめしていただいたこの本。「エンジニアのための」とあるものの、PMの観点で読んでも読み応えがありました。学びのあった部分を一部紹介します。(ちなみに翻訳前のバージョンで読んでいるので洋書ベースの書評になります。)
Strategies for Saying NO (NOというための戦略)
PMは多岐にわたるステークホルダーと仕事をする以上、なんでもYesと言ってしまう八方美人では何も決まらず物事が進まない。Noと言わなければいけない場面も往々にしてある。そんな時どのようにうまくNoというかは非常に需要なコミュンケーションスキルの一つ。本書ではいかのオプションを提示しています。
"Yes, and.."
まずは相手の意向を「Yes」で受け取る。その後に逆説的な表現でYesであるための意味を伝える。例えば、
"Yes, we can do this, and all I need to do is to delay the start of this other project which is currently on the roadmap."
というような表現。訳すと「それならできますよ。自分がしないとけないのはロードマップにある他のプロジェクトのスタートを全て遅らせることです。(-> それはかなり難しいですよね?ちゃんと他のステークホルダーにも相談しました?という裏の意味を含んでいる)」
Create policies
Noと言わなければいけない場面が多いのは、その裏返しとしてチームや会社としての「決まりごと」がないとも言える。例えば営業チームが「顧客AがXという新機能を必要としている」からといって、基本的なWhy/Whatや見込める収益も定義せずに提案していては当然PMからNoと言われて致し方ない。
リクエストがあるのなら、それが有効だと理解してもらえる情報群をしっかり集める。どんな情報群が最低限必要なのか、PMによる定義(もしくは会社による定義)がポリシーとなる。一旦これができれば、基本的にリクエストする側もまずはポリシーで決められた情報を集めなければいけない。PMが「XとYとZという情報が集まってから議論しましょう」とリクエストのたびに言う必要がなくなる。
"Help me say yes"
これは上のポリシーに近いかもしれない。自分としてはNoと言いたくないけど、Yesと言うためにはあまりにロジックや裏付けが弱いよ、というシグナルを伝えるための表現。そんな時にこの言い方が使える。ただ、その場合PMはYesというための基準がなんなのかを説明する必要があります。
Appeal to bugdet
PMがかかわるプロダクトチームの稼働状況について時間的・人的リソースの状況がいかにタイトかを伝えることで、"Not right now"(今はムリ)というシグナルを送るという方法。
逆に、PMから「今はムリ」と言われた側は「いつなら可能なのか」、「リソースをどこからか用意できれば可能なのか」をフォローアップすべし。PMのプライオリティーに関する意思決定を助けてあげれば、Yesと言わせることも可能。
Let's work as a team
自分一人でNoと言うより、チームとしての意思決定プロセスを経て決めようというリクエストのリダイレクト。
Don't *prevaricate(*言葉を濁す)
Noと言わなければならないのなら、後回しにしない。とはいえ、あまりに先走ってNoと言ってしまったらそれはあとで謝らないといけないケースもあります。ただ、時間価値を考えれば全ての決断マターに時間をかけていくわけにも行かない。であれば、その場を濁して、相手がどうしていいかわからない状況にしてしまうのだけはやめましょう。
”Say No"を使いこなすのはPMとしての一つのスキル
同じNoと言うにしても、一方的にはねつけるのではなく相手がアクションしやすいようにNoと言うほうがお互いのためになる。上記以外にも表現のしかたはあると思うが、大事なのは、"Responding positively but articulrating the boundary." 「ポジティブに反応しつつも、どこがYesの境界線なのかしっかり伝える」ということ。PMは「良い人」であるよりも「芯の強さと頭の柔らかさがある人」でいたほうが信頼されるし、結果的に関わる人の生産性があがるのだ。
(Strech goal) ぜひ洋書版にもチャレンジを
今回Management Pathを洋書で読んだが、読みやすい英語で書かれていてページ数も200ページくらいと薄い本。なのでそこそこ英語の読解力がある人なら、ちょっと自分にストレッチをかけるだけで読めるはずです。洋書と聞いて「そんなの無理」と避けてしまう前に、部分的に触るだけでもいい。筆者の生の声が読める原書は和訳とは違った学びがあります。つねに広い視野を要求されるPMとして、洋書を読めるようになると自分の知性の世界観が広がりますよ。
日本語版
洋書版