Quest PM

米系スタートアップで働くプロダクトマネージャー(PM)の姿をサンフランシスコから

米ウォルマートは1年後、店内が面白いことになるかもしれない。

総売上48.6兆円の巨大小売企業

Walmartは日用品や生鮮食品、生活雑貨からカー用品、果ては狩猟用の拳銃と弾頭まで取り揃える巨大な小売店だ。同時に世界でも屈指の小売ビジネスプレイヤー。日本でよく聞く小売の巨人といえば、Amazonセブン&アイ・ホールディングスイオングループだと思うが、実はグローバルに見ると、Walmartのほうが企業規模も総売上もAmazonより3倍以上になる。(2016年の実績ではWalmartの総売上が48.6兆円、Amazonが13.6兆円。セブン&アイの9倍以上の規模。社員数はWalmartが220万人、Amazonが54.2万人。)

しかし、成長率ではAmazonのほうが圧倒的に上。なのでWalmartはEコマース部門に積極的に投資して、2017年は1年前と比べ69%もの伸びを見せる。Amazonに対してかなり対抗心むき出しだ。

 

そんなWalmartが賃上げするという。アメリカ国内の減税措置を受け、賃上げで働き手の確保を・・と伝えられている。

jp.wsj.com

 

このニュースの一面だけを捉えていたらたぶん本質が見えない。

 

今年に入りウォルマートは実店舗での購買エクスペリエンス改善にも着手し始めた。オンラインとオフライン両面からカスタマーを囲いこみたいというのが本心だと思うが、実際に店舗で見た彼らの「改善策」を見てると、おもしろい方向に進むかもしれないと感じさせる。

Walmartのカスタマーが困っていること

Walmartに行くとまず気づくのが、とにかく訪れる客がモノをよく買うということ。EDLP(Everyday Low Price)標榜のもと、低価格戦略を貫いているのも理由の一つ。そして訪れる客たちはどういうわけか、1度に買う量がものすごく多い。

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問題となるのはレジでの会計だ。これだけ買い込む人がレジにたくさん並ぶと、混雑時には自分が並んでから会計が済むまで平気で20分程度かかる。

これだけ待たされると購買を離脱する人がでてくるのだ。店舗を観察すると、並ぶのをあきらめた客が、山盛りの買い物カートを放置してそのままお店を出てしまうケースもある。

そして、なんといってもWalmartは店員の反応がノロい。日本の感覚ではレジといえばテキパキとスキャンされてさっさと支払いに進むのだが、Walmartではこうはいかない。まさに映画ズートピアに登場するナマケモノのようなトロさ。

youtu.be

 

Walmartの解決策 

そこでWalmartは"Mobile Express Scan & Go"というのを導入。"Save Time at Check Out"という謳い文句なので、実際どのくらいSaveできるか試してみた。

 

普通のスマホに持ち手がついたようなデバイス

 

 使わない時はこのようにカートにさしておける。

 

商品をスキャンすると、このような表示に。

 

”Finish"をタップすると、レジへ向かうよう言われます。 

 

セルフチェックアウトのレジはガラガラ。並ぶことなく端末へ。

 

一方ヒトが会計をする列はこんな感じ。
たった2つの商品を買うのにこんなに並ぶのは馬鹿げてる。

 

 

QRコードをスキャンすると、

 

すぐさま会計に。支払いをすませて終了。すでに手元のデバイスで商品をスキャンしているので、レジであらためてする必要がない。確かにプロセスは圧倒的に早くなった。

 

買い物のストレスが大幅軽減

これまでWalmartのような大規模小売店舗は、会計に時間がかかるのがネックだった。もちろんアマゾンがテストしたような無人店舗という方向性もあるが、この店舗の規模だとおそらく対応はまだ先の話。でもこれだけ買い物の開始から会計まで早く済むなら、また来ても良いと思う人がでてきておかしくない。そして最終的にはレジ対応のヒトを減らし、買い物の満足度を高め、リピートにつなげる可能性をあげた。このMobile Expressは今できる現実解をうまく当てはめている。

 

店内を動き回り、棚をチェックするロボット

www.theverge.com

Walmartの取り組みは他にもある。動きが遅い定員はレジに限らない。店内にいる他の店員もとにかくノロく、対応が悪い。在庫確認をお願いすると5分以上もどってこない。おそらくウォールマートはそのことを知っているのだろう。日本だとすぐに社員教育という方向に走りがちだが、ロボットで生産性をあげる取り組みが始まっている。

棚をスキャンし、品の売れ行き状況や、値段、間違った場所に置いてある品を見つけるのが今のところの仕事。従業員の生産性をあげるのが今のところのゴール。ひと目につくなら、もう少しこのロボットのデザインなんとかしたほうがいいとも思うのだが、その辺全く気にしないところが効率最優先のウォールマートならでは。

日本の狭い店舗にすぐ当てはめられるものではないが、「ヒト」を前提としないこのウォールマートの方向性は、小売りのイノベーションが大きく進む可能性を秘めている。なぜなら彼らの投資家向けアナウンスには、2018-2019年にかけて約1.2兆円を上の例のような取り組みを含む、下記3点に投資するとうたっていたからだ。

    • Walmart U.S. will continue to prioritize store remodels and digital experiences over new stores.

    • eCommerce investments include enhanced supply chain capabilities.

    • In addition to new stores, Walmart International will invest more in fulfillment capabilities.

      昨年10月のアナウンスメントより

 

ウォルマートはアマゾンがまだ本格的に手を出していない、大規模リアル店舗の未来系を本気で模索しはじめた。これだけの投資が入ってくると、店内の様子がだいぶ変わってくる可能性がある。